
インターネットの発展により、私たちは自宅にいながら遠方のサービスや商品を購入することが一般的になりました。ECサイトはもちろん、デザイン事務所のように、本来は対面での打ち合わせが必要とされる業種でも、メールや電話、スカイプなどを活用して全国の顧客に対応するケースが増えています。事業者にとっても消費者にとっても、”地域”という物理的な垣根は無くなりつつあります。
しかし、実務としての地域の垣根が無くなっても、「心理的な障壁としての”地域の垣根”」は、依然として残っているのが実情です。この心理的障壁は、リスティング広告の費用対効果に大きな影響を与える可能性があります。
ECサイトのように元々が通信販売を目的としている場合は、距離的な心理的障壁は発生しにくいかもしれません。しかし、デザイン事務所のような、本来は顧客と実際に会ってサービスを受けることがある業種の場合、距離が離れていることによってユーザー側から敬遠されてしまうことがあります。
一例として、東京都内で開業し、日本全国を対象に対応している形態の企業が、地域別のコンバージョン率を調査したところ、一都三県(東京都と周辺の神奈川、千葉、埼玉)のコンバージョン率が高い一方で、そのほかの遠方地域のコンバージョン率が著しく低くなっているケースが見られました。
遠方の地域のコンバージョン率が低くなっている理由として、「遠方だから」という心理的な壁が考えられます。この「遠方だから」という理由を深く掘り下げると、ユーザーの心には「なにかあった時、距離的に遠くだったら困る」という不安が働いている可能性があります。特にBtoB(企業間取引)の場合、個人的な依頼ではなく会社としての依頼になるため、この「なにかあったら困る」という心理的な傾向はより強くなると言えるでしょう。
広告主側が「距離は関係ない!」「どこであろうと変わらないクオリティを提供している」と思っていても、ユーザーの心理は別である、という現実はよくあることです。
もし距離的なことが原因で遠方の地域のコンバージョン率が低くなっているとしたら、その解決策は大きく分けて二つあります。
ユーザーが「ここにお願いしたい」と感じていても、距離が遠いから問い合わせをしないという状態であれば、その根本原因を解消してあげることが重要です。
具体的な対策としては、遠方のユーザーに対し、「不安な方は何度でもお電話やスカイプで打ち合わせに応じますよ」と伝えることが挙げられます。さらに、「交通費を負担してもらえれば出張してお打ち合わせも出来ます」といった提案も、ユーザーの不安解消の助けになるでしょう。遠方であっても、対面で打ち合わせをしているのと同じことができると伝えることで、心理的な不安を和らげます。
同時に、「遠方だからこそのメリット」を伝えることも有効な手段です。例えば、「打ち合わせや移動の時間がかからないから高品質で安くできる」や、「打ち合わせもメールだから会話の齟齬がなく記録が残せる」、「デザイン案などもゆっくり確認したうえで返事ができる」といった点を強調することで、不安解消の助けになることは間違いありません。
広告費が無限にあるのであれば別ですが、限られた広告費の中でより費用対効果を上げていこうとするならば、コンバージョン率の低い遠方への広告配信を停止するという選択も一つの手段となります。
コンバージョン率の良い近場の地域に広告予算を集中投下していくことで、無駄なクリックを減らし、成果を最大化させることが期待できます。運用実績から、地域とコンバージョン率の関係を調査し、効率の悪い地域への配信を停止することは、ターゲティング戦略の重要な側面です。
リスティング広告の運用においては、「広告は表面的なターゲット設定では成果は出ない」という考え方に基づき、地域ターゲティングの設定を単なる地理的な線引きと捉えるのではなく、ユーザーの心理的な状況まで考慮して調整していく必要があります。もし現在の運用で距離が関係しているようであれば、上記のような何かしらの対策を講じることで、パフォーマンスの改善が見込めます。
リスティング広告の地域ターゲティングにおいて、物理的な距離の垣根は無くなりつつありますが、ユーザーの心の中には「なにかあった時の不安」という心理的な障壁が依然として存在します。この距離による不安を解消するためには、オンラインでのコミュニケーション体制や、対面に近いサービスを提供できる安心感を具体的に伝える必要があります。また、「移動時間がない分安価になる」「記録が残りやすい」といった遠方取引のメリットを強調することも有効です。一方、限られた予算で費用対効果を追求する場合、コンバージョン率の低い遠方地域への広告配信を停止し、実績の良い近隣地域に予算を集中投下するという戦略的判断も重要となります。運用成果を改善するためには、今一度、地域とコンバージョン率の関係を調査し、適切な対策を講じることが不可欠です。
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